10



 何かを思い出すようには何処か遠くを見ている。一体何を考えているのか、その眉間には深く皺が刻まれていた。


……?」


 操が目を覚ました事にもは気が付かない。剣心は迷いながらもその肩を叩いた。




月村



「ねえねえ! あんた達の関係っていったいナンなのー?」


 剣心に同行を許された操は調子に乗ったのか、達について根掘り葉掘り聞いてこようとした。勿論それに懇切丁寧に答えるはずもなく、都合の悪い質問に関しては完全に無視している。


「何よーそんなに言いたくないってことは……あんた達もしかしてソッチ系?」


 今まで操の質問に無反応を貫いていただったが、この発言には剣心と共に大いにずっこけた。達が衆道……つまりは男色の関係だということだろうが、そんなの勘違いだとしても鳥肌が立つ。
 第一、は女だ。


「巻町さん、それだけは全力で否定させてもらうよ。剣心とだなんて……うぇぇ」


 そう言っては大げさに吐くそぶりまでした。流石にそこまで全力で否定されると剣心としては複雑なのか、の隣で若干剣心がうな垂れている。しかしはそんな剣心の様子に全く気付かないふりをして、鳥肌の立った腕をしきりにこすりながら「気持ちわりー」と繰り返した。

────そんな二人の様子が森の奥から聞こえた“物音”によって豹変した。
 その物音はただの森の動物だということも当然有り得る。しかしたちの直感は、それが人間の気配であることを強く訴えていた。


「巻町さん……できるだけ静かに俺達から離れて」

「え……あんた達が狙われてるって本当だったの」

「いいから早く」


 剣心は物音がした方へと向かう。操という障害がある以上、先手を取った方が良いだろう。もそれに次いで走った。物音のした方へ近づけば近づくほど、嗅ぎなれた血の臭いが鼻を突く。

 そこに居たのは……志々雄の仲間でも、ましてや森の動物でもなく────血まみれで瀕死の男と、その腕に抱かれた少年だった。


「何か、言い残す事はないでござるか」


 死に行く男へと剣心が静かに問うた。
 まずい流れだ。十中八九、これは“寄り道”……つまり、これが斎藤にバレれば、の寿命が大いに縮まるのは確実だった。しかし死にゆく男の前で言うべきでは無いだろう。
 内心冷や汗をかきながらも静かにはそのやりとりを見守った。


「こうして死を看取るのも何かの縁。出来るだけの事はするでござる」

「た……頼む…俺の、弟と村を…志々雄の連中から救ってくれ……」


 それだけを言い残して男は力尽きた。
 剣心が墓を造ろうというから、墓穴を掘るのを手伝った。今も昔も墓を造るのが好きな男だと思いつつ、は黙々と手を動かした。


……この童が起きたら、この男の村に行こう」

「駄目だ」

!」

「こんなところで道草食っている暇はない。ただでさえ、お前が海路を選ばなかったせいで遅れているんだ」


 としては、これ以上京都到着が遅くなるのは避けたかった。理由は単純だ……斎藤に命令されたから。此処で“下っ端”を潰した所で大元を叩かなければ意味が無い。もし、こんな理由で剣心の寄り道を許したという事がバレたら、は間違いなく“牙突”の犠牲となるだろう。


「拙者、もう決めたでござる。知ってしまった以上、放っておくことはできない」


 しかし剣心の意思はもうガチガチに固まってしまったようだ。そうだこいつは昔から超の付く頑固者だった、とは心の中で嘆息した。おそらくがこれ以上なんと言おうと、剣心が意思を曲げる事はないのだろう。


────ならばいっそのこと、さっさと事を片づけるに限るか。


 暫しの逡巡の末、は剣心と共に新月村へと向かうことを決めた。