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詳しい事情を聞いた後、少年の事は操に任せてと剣心は新月村を目指した。
政府から見放され、地図からも消された新月村は寂れきっており、既に廃村の体を成していた。
阿呆二人
あの少年の話によると、今志々雄がこの村に逗留しているらしい。その為この村の統括者である尖閣は志々雄をもてなすため館にいる筈。
────だから今が少年の両親を助け出す最大の好機なのだ、と。
その話を聞いては内心で溜息を吐いた。経験上、それは不可能だと感じたからだ。少年の兄は裏切りが露見して殺されたのだから、残されたその“裏切り者”の両親が健在である筈がない。
────おそらく見せしめとして殺されているのではないか。
しかしこの考えをあの場で言うつもりはなかった。言ったとしても無駄にあの少年を刺激するだけ。の目的は見ず知らずの村の人間を救う事ではなく、さっさと事を片付けて剣心を京都へ連れて行く事だ。
だからこそは黙って剣心について新月村へと入ったのだから。
「なあ、剣心……あれ」
案の定、達が村に入って暫くしたところで無残な状態の男女の死体が木に吊り下げられていた。
「全身なます切り……あの子の兄と同じ殺され方だ。十中八九、この村を統括している尖閣の仕業だろうね」
死体を前に、怒りからか剣心は押し黙っている。それをよそにがこの状況を分析していると、林の方からあの少年の叫び声が聞こえた。
付いてきていたのか────少年と操の安易な行動には文句を言いかけたが、結局それどころの状況ではなくなってしまった。
少年の叫び声によって侵入者の存在に気づいた志々雄の配下達が何十人と、達を囲み込んだのだ。
「貴様ら余所者だな!? そいつらの息子達はこの村から逃亡を企てた。その者達は責めを負って尖閣様が処刑され、みせしめとして俺たちが吊るしたのだ。ここは偉大なる志々雄様が政府のブタどもから勝ち取った領村! よって余所者には死、あるのみ!!!」
盲目的な指揮者の言葉に完全にキレたのか、剣心は問答無用でこの連中を倒すつもりの様だ。
一方、はさっき話を聞いただけの少年の両親が惨殺されたとて、特に感慨も湧いてこない。この場は剣心に任せて操達の所へと戻ろうと、退路に居た邪魔者のみを斬ることに終始した。
とは言っても最初の数人を斬ったあたりからの殺気に怖気づいたのか退路を防ごうという者は居なかったが。
「ちょっと巻町さん! なんでこの子と一緒に付いてきたんだよ。お蔭で面倒な事になったじゃないか」
「なんでよー、あたしだって御庭番衆なんだからあんた達の力にだって十分なれるわよ!」
「……俺が知ってる隠密御庭番衆には、依頼を手前勝手な理由で反故にするような人間は居なかったぞ」
未だ戦闘を続けている剣心をよそに、は操に対して約束を守らなかった事に文句を言う。操は納得いかないと食い下がったが、“御庭番”の名を出すと思うところがあったのかぐっと黙り込んでしまった。
両親の惨殺死体を見た衝撃から未だ抜け出せていない少年と、すっかりしおらしくなってしまった操の傍で、はこれからどうしたものかと考える。
「余所者には死あるの──」
は背後に殺気を感じ瞬時に刀を抜いた。襲ってきた人物を抜刀した勢いそのままに斬る。ご丁寧に口上を叫びながら槍を突き出してきた男は、最後までその文句を言う事も出来ずに絶命した。
しかし男の致命傷となったのはの左薙ぎでは無い。男の首を貫いた日本刀はそのままの額の一歩手前で──あと少し力を入れればまで串刺しになる様な距離だ──止まっていた。
この場で最も会いたくない人物の登場に、は全身に冷や汗をかいて乾いた笑いを漏らす。
────斎藤さん、なんでこんな所にいるんですか。
「この阿呆どもが」そう言って斎藤は血濡れの刀を引き抜いた。