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京都探索方からの便りはにとって最大の関心事だった。
隠密御庭番衆の独自の伝達手段で、
京の情勢が逐一御頭の下に報告されていた。
そしてある時期から報告書でしきりに言われるようになった。
────緋色の髪をした少年が京の街で暗躍している、と。
緋色の人斬り
「京に戻りたいかい? 」
食い入る様に京からの報告書を読むを見て御頭が言った。
全てを見透かしたかのような御頭の眼差しにはドキリとした。
京都探索方の皆が心配だという事もあったが
何より"緋色の髪の少年"の事が気にかかっていた。
(剣心、なんだろうか……)
化け物じみた強さで冷酷に対象を暗殺していく。
かつての剣心からは想像が出来なかった。
馬鹿正直、と言って良いほど素直で頑固だったあいつが。
「ついに薩摩と長州が手を組んだという話もあるし、
京での任務は難しいものが多くなるだろうね。
それでも今のならやってくれると信じてるよ」
そう言って御頭はの頭を優しく撫でた。
今年で十四になるのだから子ども扱いはよしてほしいと思ったが、それでも歴代の御頭でも最強と言われるこの人に褒められるのは、
にとって誰に褒められるよりも嬉しいことだった。
***
お互いに任務が入ってない場合、早朝に手合わせをするのが、
ここ数年のと蒼紫の習慣になっていた。
が死にかけた“あの”任務以来、
それまでの不和が嘘のようにと蒼紫は仲良くなった。
もともと実力も拮抗した年の近い二人だったのだから
周りから見れば自然な流れだったのかもしれない。
「は京に戻るのか?」
いつものように手合わせを終えると、乱れた息を整えながら蒼紫が聞いてきた。
「御頭の許しも出たし、近い内にそうするつもり。
どうした、俺がいなくなると寂しい?」
「そんな事一言も言ってないだろう。
それよりお前みたいな面倒臭い奴が増えるなんて京都探索方の人達に同情する」
いつもの様に嫌味を言ってくる蒼紫には笑った。
蒼紫の口をついて出て来る悪態の、全てが本心では無い事は
ここ数年の付き合いで分かっていた。
「でも俺はともかく、般若や式尉は寂しがるかもな。
お前と一緒に修行することも多かったし」
「そうだね。生きてまた、あいつらに会えるように俺も頑張るよ」
蒼紫達、江戸の皆と離れるのは寂しかったが、
この時は京都に居るであろう剣心の事が気になっていたし、
は迷いなく京都行きを決めた。
────しかし出立するまでの間に将軍家茂公が亡くなり、
さらには御頭も病で急逝した事で、
はすぐには江戸を離れるわけにはいかなくなってしまった。
そして蒼紫が新しい御頭に据えられることが決まり、
改めての京都行きが決定した頃には、当初の予定から既に一年近くが経っていた。
「それじゃあ行ってくるよ、蒼紫」
「……ああ」
御頭になった蒼紫は、全く感情を表に出さなくなっていた。
この時が、蒼紫と会った最後だった。
そのことが今でもの胸にしこりを作っている。
***
京でのの任務は幕府召抱えになった新撰組との連携を図る事だった。
表向きは一般隊士として新撰組に入隊したは
その後何度も何度もかつての弟弟子と対峙することとなった。
────緋色の髪をした少年『人斬り抜刀斎』と。